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東京地方裁判所 平成5年(ワ)8749号 判決 1996年9月27日

原告

角田和雅

被告

日本テレコム株式会社

右代表者代表取締役

馬渡一眞

坂田浩一

右訴訟代理人弁護士

直江孝久

尾原秀紀

北古賀康博

右訴訟復代理人弁護士

池田竜一

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、二三五万四一五六円並びにうち二六万五五〇〇円に対する平成三年六月一日から支払済みに至るまで年一四・六パーセントの割合による及びうち二〇三万三六五六円に対する同月一日から支払済みに至るまで年五分の割合による各金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、被告の元従業員であった原告が、被告に対し、雇用契約に基づく歩合給、夏期賞与及び営業経費の支払請求権があるとし、これら及びこれらに対する遅延損害金の支払いを求めると共に、原告は、就労中、被告従業員からいじめや嫌がらせを受けた上違法に解雇され、発病もしたとし、これらにより被った精神的損害の賠償及びこれに対する遅延損害金の支払いを求め、加えて、未払歩合給について付加金支払命令を請求した事案である。

一  争いのない事実等

以下の事実は、当事者間に争いがないか、あるいは括弧内に記載した理由により容易に認めることができる。

1  被告は電気通信事業法に基づく電気通信事業等を業とする株式会社である。

2  原告は平成二年九月二六日、被告と営業外務社員雇傭契約を締結(以下「本件雇用契約」という。)し、同年一〇月一日から勤務していた。

3  本件雇用契約締結にあたり、原告及び被告は、賃金及び賞与の支払につき、以下のとおり合意した。

(一) 賃金

(1) 固定給 月額二〇万円

(内訳)

基本給月額一八万円 営業手当月額二万円

(2) 歩合給

必須目標一〇〇万円達成時に一万円を支給し、以下一万円を超える毎に部長及び支店長判断により五〇〇円から一〇〇〇円を加算し、これを翌月支払う。

(二) 賞与

支給算定期間(六月一日から一一月三〇日、及び一二月一日から五月三一日)の売上が六〇〇万円を超えた場合、一万円につき五〇〇円を支給する。

4  原告は、被告に対し、平成三年四月中の売上げが、以下のとおり合計二七〇万円であったと報告し、被告は、そのうち株式会社アオイ東京店(以下「アオイ東京店」という。)に対する一一〇万円の売上を除いた一六〇万円を原告による売上分と認め、原告に対し、同月売上分歩合給として四万円を支払った。

年月日 企業名 売上

平成三年四月八日 東京コミュニティー 一〇万円

〃一六日 サンテック株式会社 四〇万円

〃一七日 株式会社アオイ東京店 一一〇万円

〃二五日 安川情報システム株式会社 四〇万円

〃二六日 昭和物流株式会社関東営業所 三〇万円

〃三〇日 日本交通公社新横浜支店 四〇〇万円

合計二七〇万円

5  被告は、平成三年五月二四日、原告に対し、同月三一日付けで解雇する旨の意思表示(以下「本件解雇」という。)をした。

6  被告は原告に対し、以下のとおり、解雇予告手当を支払った。

(一) 平成三年六月四日付けで一五万九一〇四円

(二) 平成六年二月三日 一五万九二一〇円(遅延損害金一万八八〇八円を含む。)(当裁判所に顕著な事実。)

二  争点

1  原告のアオイ東京店に対する営業活動が歩合給発生要件を満たすか否か。

2  原告の平成三年度夏季賞与請求権の有無。

3  原告主張にかかる交通費等が、被告の負担すべき営業経費となるか否か。

4  原告の被告に対する慰謝料請求権の有無。

5  付加金支払に関する請求。

6  被告による同時履行の抗弁の成否。

三  当事者の主張

1  争点1(原告のアオイ東京店に対する営業活動が歩合給発生要件を満たすか否か)について

(原告)

原告は、平成三年四月一七日、アオイ東京店から〇〇八八市外電話サービス申込証を受取り一一〇万円の売上を出したから、この分を含めると、平成三年四月における原告の総売上は、第二(事案の概要)一(争いのない事実等)4記載のとおり二七〇万円となるので、原告に対し、同年五月に支払うべき歩合給は九万五〇〇〇円となる。しかしながら、被告は、その内四万円を原告に支払ったに過ぎないから、原告は被告に対し、差額の五万五〇〇〇円の支払いを求める権利がある。

原告がアオイ東京店と行った契約は第一優先順位であったが、そもそも、原告入社時から、空回線の受注の場合でも歩合給は支給されていたものである。

(被告)

(一) 歩合給支給要件について

被告は、営業社員が被告に課金すなわち電話サービス利用料金が発生する以下の契約を取り付けた場合に、同人に歩合給を支払うこととしたものであり、このことについては、原告を含む営業社員に対し、営業研修及び日常における指示等の機会に説明していた。

(1) 顧客から、原(ママ)告以外の新電電である第二電電株式会社(以下「DDI」という。)及び日本高速通信株式会社(以下「日本高速通信」という。)のアダプターが設置されていない第一優先の〇〇八八市外電話サービス申込書を獲得した場合。

(2) 顧客先に既に他の新電電のアダプターが設置されていた場合であっても、顧客との間において、他の新電電のアダプターから被告のアダプターに設置し直すこと(以下「リプレース」という。)についての承諾を受け、当該顧客から〇〇八八市外電話サービス申込書と共に他の新電電の設置したアダプターについての解約書を受取った場合。

(3) 平成三年三月一五日以降、川崎地区に限り、DDIのアダプターを設置している顧客との間で、アダプターの選択につき、被告を第二優先順位とする合意を得、当該顧客がDDIに被告回線利用申込証を提出した場合(被告が、同年六月二一日、川崎地区に新電電と日本電信電話株式会社(以下「NTT」という。)との接続点(以下「POI」という。)を開設したことから、当時、被告と、POIを開設していないDDIのアダプターが取り付けられていた顧客との契約が、被告を第二優先順位とする契約であっても、被告に課金が発生することとなったため。)。

(二) アオイ東京店との関係について

アオイ東京店の所在地は、東京都千代田区紀尾井町であって、川崎地区外であり、しかも、同店には、原告が交渉に入った当時既にDDIのアダプターが設置されていたため、リプレースが成立するのでなければ、歩合給支給の対象とはならなかった。被告は原告から、同店がリプレースを承諾し、同店のアダプター解約書を取得したとの報告を受けた。しかしながら、被告が、平成三年五月二四日、同店の担当者に対し意思確認をしたところ、同人から、「原告に対しては、既に設置してあるDDIのアダプターは取り外さないで欲しいことを伝えてある。解約書がDDIのアダプターを取り外すためのものであるという説明は聞いていない。DDIのアダプターで被告の利用もできると聞いたので申込んだに過ぎない。」といった内容の回答を得た。被告は、右の回答から同店についてのリプレースは成立していないと考え、解約書を同店に返却した。

以上のとおり、同店とのリプレースは成立しておらず、歩合給支給の条件を満たさないのであるから、被告が原告に対し、これを支払うべき理由はない。

2  争点2(原告の平成三年度夏季賞与請求権の有無)について

(原告)

原告の、平成二年一二月一日ないし平成三年五月三一日の賞与支給算定期間内における売上げは、以下のとおり合計一〇二一万円であったから、原告は被告に対し、平成三年度夏期賞与として二一万〇五〇〇円の支払いを求める権利がある。

<1> 平成二年一二月 一〇〇万円

<2> 平成三年一月 一七一万円

<3> 〃二月 二二〇万円

<4> 〃三月 二六〇万円

<5> 〃四月 二七〇万円

<6> 〃五月 〇円

合計一〇二一万円

(被告)

営業外務社員として被告に雇用されていた原告には臨時社員就業規則が適用され、同規則二四条、同条に基づく「『臨時社員就業規則』別の定め」三条一、二号及び「平成三年度の賞与(夏季手当)の支給について」によれば、平成三年度の夏季賞与は、支給日である平成三年六月二七日現在において在職する社員に対して支給されることになっていた。しかしながら、原告は、同日には既に被告に在職していなかったため、平成三年度夏季賞与受給資格を有しなかったのであるから、被告が原告に対し、右賞与を支払う義務はない。

3  争点3(原告主張にかかる交通費等が、被告の負担すべき営業経費となるか否か)について

(原告)

(一) 原告、被告間には、営業活動上必要な経費(交通費、電話代、書籍代等)については、原告が一旦負担し、その請求に基づき被告が支払うという合意があった。

(二) 原告は、営業経費として、以下のとおり合計三万三六五六円を立替払いした。

(1) 平成三年四月分交通費 四〇五〇円

(内訳)

平成三年四月一六日立替分

利用区間 交通機関 金額

<1> 相模原―第一互助 タクシー 五四〇円

<2> 町田―相模原 小田急 一〇〇円

<3> 相模原―多摩センター 〃 二三〇円

<4> 多摩センター―新百合ケ丘 〃 一二〇円

<5> 新百合ケ丘―町田 〃 一三〇円

<6> 町田―相模原 JR 一六〇円

<7> 相模原―川崎 〃 六一〇円

<8> 新横浜―古渕 〃 二九〇円

<10> 古渕―町田 〃 一二〇円

但し、原告は、当日午前一一時頃、サンリオ株式会社多摩事務所へ行き、管理部経理課所属の佐藤雅之と面会したものである。

同月二六日立替分

利用区間 交通機関 金額

<11> 川崎―日本冶金 タクシー 一七五〇円

合計四〇五〇円

但し、原告は当日川崎地区工業地帯のキグナス石油精製株式会社へ行き、技術部計電課課長代理の仲田哲雄と面会したものである。

(2) 書籍代 一万五一四三円

原告は、以下の書籍を購入し、代金を立替払いした。なお、原告は、被告従業員笹本の事前承認を得て購入したものであり、購入した書籍は営業所に保管した。

(内訳)

購入日 書籍名 金額

<1> 平成二年一二月二日 通信の基礎知識 一二〇〇円

<2> 〃〃二九日 目で見るISDN 一三四〇円

<3>〃〃 電話代を節約する本 八〇三円

<4> 平成三年一月一四日 日経コミュニケーション 一万一八〇〇円

合計 一万五一四三円

(3) ガソリン代 一万〇四六三円

原告は、ガソリン及び最低限安全上必要のあるものを補給、購入し、それらの代金を立替払いをした。

(4) テレフォンカード代 合計四〇〇〇円

原告は、以下のとおりテレフォンカードを購入し、代金を立替払いした。

なお、原告は、被告従業員辻の了解の下に、テレフォンカードを購入したものである。

(内訳)

購入日 金額

<1> 平成三年五月九日 一〇〇〇円

<2> 〃〃一六日 一〇〇〇円

<3> 〃〃二二日 一〇〇〇円

<4> 〃〃二八日 一〇〇〇円

合計四〇〇〇円

総合計三万三六五六円

(被告)

(一) 交通費(平成三年四月分)について

(1) 平成三年四月一六日の分

原告は同日、被告の業務用車両を利用していたのであるから、電車やタクシーを利用したとして料金を請求することは不合理である上、原告の主張どおり電車を利用したとして電車の乗継時間及び目的地までの所要時間を計算すると、終日電車に乗車していることになってしまい、顧客との面談の時間的余裕がなくなってしまうことになる。

以上からすれば、原告の請求は不正な請求であるので、被告はこれらを支払う義務はない。

(2) 平成三年四月二六日の分

原告が同日分タクシーの領収証として被告に提出した領収証の訂正前の日付は四月二七日となっており、同日は休日である土曜日に当たり、原告の勤務日ではないので、これを営業経費と認めることはできない。また、同領収証の日付は、元々二七日と記載されていたものが、原告によって二六日と手書きで訂正されているが、これを平成三年四月二六日に利用したタクシー代であると認めることはできない。

(二) 書籍代について

(1) 被告は、営業社員に対し、被告の負担で、新聞・図書等の書籍を購入する場合には、被告所長の事前承認を得た後、女子従業員を通じて購入するのが原則であり、同従業員が多忙である場合には、書籍購入を希望する従業員が所長の事前承認を得て当該書籍を購入し、その後、領収書及び購入した書籍を被告に提示することが必要であり、書店から受領する領収書の宛先については「上様」とせず、被告宛にするようにとの指示をしていた。

(2) 被告は、原告請求にかかる四冊の書籍の購入について事前承認を与えていない。また、原告が右各書籍購入に当たり受取ったとする領収書は、四枚中三枚が「上様」宛に、『日経コミュニケーション』との書籍名が記載された領収書は原告個人宛になっている。更に、右各書籍を原告が被告川崎サテライトオフィスに持参した事実もない。以上からすれば、原告請求にかかる本件各書籍代の購入については被告において取り決められた正当な手続がなされていない上、真に被告のために購入したものとも認められないので、被告が原告に対し、代金を支払うべき義務はない。

(三) ガソリン代について

(1) 被告の負担で、ガソリンを購入する場合には、被告所長の事前承認を得た上、ガソリンスタンドで領収書に車両番号を付記し、これを被告に提出することが必要であった。

(2) 被告は、原告の請求にかかるガソリン購入について事前承認を与えていない。原告は被告に対する代金請求を、支払証明書をもって行っているが、被告が支払証明書をもって営業経費と認めているのは領収書の発行されない場合に限り、ガソリン代については過去に認めたことがない。なお、原告の請求にかかるガソリン代についてはガソリンスタンド発行の領収書が不備であったため原告に返却済みであり、再度提出されていない。その上、「原告はガソリン及び最低限安全上必要のあるもの」を購入したと主張するが、その内訳も、購入日も明らかでない。以上からすれば、原告が被告所有の営業車両のガソリン代を立替払いしたとは到底認められないから、被告がこれを支払うべき義務はない。

(四) テレフォンカード代について

被告は、従業員に対し、通話代金が被告負担となるコレクトコールカード及び被告が販売促進のため、顧客に贈与する目的で作ったテレフォンカードを、従業員の請求と被告の承認に基づいて、それぞれ支給していたのであるから、従業員があえてテレフォンカードを購入する必要性は全くない。また、被告は、営業社員が自らの負担で顧客に電話し、それに要した電話代について、その都度営業社員の請求に基づき、支払っていたが、従業員がテレフォンカードを購入しても場合(ママ)、被告には、当該従業員が被告の営業活動のために電話をかけたのか否かが全く分からないのであるから、その購入額全額を支払うことはあり得ない。以上から、テレフォンカードを購入しただけでは営業経費と認められないから、被告にはこれを支払うべき義務はない。

4  争点4(原告の被告に対する慰謝料請求権の有無)について

(原告)

原告は、入社して被告横浜支店で研修を受けた後、川崎サテライトオフィスに配属されたが、就労中、被告従業員から、以下のとおりのいじめや嫌がらせを受けた。そして、被告から違法な本件解雇がなされた上、業務遂行中に発病もした。原告はその結果、多大な精神的苦痛を受けたものであり、これを慰謝するためには二〇〇万円が相当である。

(一) 原告が被告従業員から受けたいじめや嫌がらせ

<1>原告は、日本鋼管不動産川崎事業所ビルに入居する各社の受注を受け、被告電話サービス受注書に担当者の署名及び社印を具備したが、従業員笹本は、平成二年一〇月、被告女子従業員を同ビルに赴かせて右顧客会社から再度社印等を請求する等して不審を抱かせ、原告の信用を失墜させた。<2>笹本及び従業員辻は、女子従業員を使い、原告が受注済みであったアオイ東京店に対し、「そんなサービスはありません。」等と言わせ、潰しにかかった。<3>笹本は、日本冶金工業川崎製造所において売上条件等変更で潰しにかかった。<4>辻及びパート社員の寺田らは、原告の残業申請等を受けなかったり、見込客である富士ゼロックスへ、他の社員の後に行って妨害した等事実無根のことを言いふらした。<5>被告は、現場を無視し、労働契約に違反する営業地域の変更を行った。<6>笹本は、原告の通勤手当変更手続を三か月以上無視し続けた。<7>辻は、「一日に一〇〇件訪問しろ。」という非常識な指示をしたり、「朝、社内に三〇分以上いた場合、一分あたり売上実績より差し引く。」等として、原告に対するいじめに加わった。<8>辻は、業務使用の社外での専用カードの電話使用を原告ができないようにし、原告に対し、自分でテレフォンカードを購入し、使用するように指示した。<9>辻は、笹本の指示に基づき、原告等の私用机の鍵を取り上げた。<10>原告は営業所に入れてもらえず、暴行を受け、警察へ通報した。<11>横浜営業所に着任した細谷所長は、笹本の告げ口を鵜呑みにし、原告の苦情を聞き付けず、原告に対し、違法に出勤停止の業務命令を出した。<12>原告は、その後被告東日本支店支店長長田に呼ばれ抗議したが、一切聞き入れられなかった。

(二) 本権(ママ)解雇の違法性について

本件解雇の意思表示は労働基準法二〇条の予告期間もおかず、且つ解雇予告手当の支払もなく行われたもので、手続上無効なものであり、さらに解雇権濫用に当たるものである。原告は被告の違法な解雇によって退職を余儀なくされ、多大な精神的苦痛を受けた。

(三) 原告の発病について

原告は、平成二年一二月一四日午後四時四〇分頃、客先である相模原市所在のアイダエンジニアリング株式会社に着いた直後に気持が悪くなり、貧血状態となって倒れ、救急車で搬送され、相模原協同病院に入院した。原告は、同日午後一一時頃及び翌朝に、かつて経験したことのない死ぬ程苦しい胸の痛みを感じた。原告は、平成六年六月二〇日に「心臓神経症」との診断を、また、平成七年九月二一日に「胸部心肥大あり」との診断を受けており、時間が経過しても症状は改善されず、後遺症が残り、悪化の兆しがあり、平静時においても胸痛がある。原告は、過去においてこのような状況になったことは一切ない。

(被告)

被告の原告に対する不法行為は成立しない。理由は以下のとおりである。

(一) 原告に対するいじめや嫌がらせについて

被告従業員が原告にいじめ、嫌がらせ及び暴行を加えたり、原告の営業活動を妨害したことは全くない。原告は、被告の電話サービスについて理解が不足しており、このため顧客に対し、説明不足であったり、誤った説明をして、顧客との間でトラブルを生じたことがあった他、営業経費についても、適正な手続を踏まない上、不正な請求をしていたものであって、原告の態度には問題があった。被告の従業員である原告に対し、これらの点について注意し、その身勝手な行動を是正させるのは被告として当然の行為であり、何ら非難されることではない。

被告は、営業社員に発破をかけるため、被告の指示事項を守らなかった場合には、一定の金額を課金から引く旨を記載した書面を配布したことがあるが、営業社員全員に配付したものであって、原告のみを対象としたわけではないし、実際には一切実行していない。また、被告は、サテライトオフィスに所属する営業社員に対し、川崎地区を重点的に営業するよう指示したことがあるが、そもそも原告の就業場所は川崎地区を主とするもので、何ら現場を無視した営業地域の変更とは言えず、調整期間も設けていたのであるから、何ら問題はない。

(二) 本権(ママ)解雇の違法性について

本件解雇は、原告が誤った営業活動、不正な営業経費の請求及び上司の業務命令に対する違反行為といった本件就業規則二八条の懲戒事由に該当する行為を行い、上司からの指示に対しても一向に是正しなかったことに基づくものであり、懲戒解雇とするのを相当とする事案であったが、原告の将来を考慮して普通解雇とするに至ったものである。既に被告は原告に対し、遅延損害金を含む解雇予告手当の差額分を支払い、原告もまた、右支払に同意し、異議なく受領しているのであるから、被告の行った解雇は適法有効である。

(三) 原告の発病について

原告は、被告に採用されてから二か月足らずで心臓疾患になったことになるが、発病したとする平成二年一二月一四日以前の二週間、週休二日のペースで休日を取っており、超過勤務時間についても心臓疾患となるほどの時間とはいえず、被告は、原告が倒れたことに関し原因となるような行為を何ら行っていない。したがって、被告における就労関係と、原告の心臓疾患との間には因果関係がない。

5  争点5(付加金支払に関する請求)について

(原告)

原告は、労働基準法一一四条により、前記未払歩合給と同額の五万五〇〇〇円の付加金の支払いを被告に対して命ずることを請求する。

(被告)

争う。

6  争点6(被告による同時履行の抗弁の成否)について

(被告)

本件雇用契約の終了に伴い、被告が原告に貸与していた被告所有の以下の各物品は、原告において先占する権限が消滅した。仮に原告の請求が認容される場合においても、被告は、原告から下記物品の引渡しを受けるまで、金員の支払いを拒絶する。

(一) 社員証、健康保険証

(二) 名刺全て(原告が在職中に知り得た顧客及び被告の人間の名刺も含む)

(三) 鞄

(四) ポケットベル

(五) コレクトコールカード

第三当裁判所の判断

一  争点1(原告のアオイ東京店に対する営業活動が、歩合給発生の為の要件を満たすか否か)について

1  (証拠・人証略)に前記当事者間に争いのない事実等を総合すれば、以下の事実が認められる。

被告の営業社員に対する賃金は、固定給及び歩合給とで構成され、歩合給は、営業社員が、被告に課金が発生する内容の契約の申込みを顧客から受けた場合に支給されることとなっていた。そして、被告に課金が発生し、歩合給支給の対象となる契約とは、具体的には、第一に、顧客から、被告以外の他の新電電のアダプターが設置されていない第一優先の〇〇八八市外電話サービス申込書を獲得した場合、第二に、顧客に既に他の新電電のアダプターが設置されていた場合には、顧客からリプレースについての承諾を受け、〇〇八八市外電話サービス申込書及び現存する他の新電電の設置したアダプターについての解約を求める解約書を受け取った場合、第三に、川崎地区においては、平成三年三月一五日以降、DDIのアダプターを設置している顧客との間において、DDIに対し、アダプターの選択について、被告を第二優先順位とする合意が成立し、当該顧客がDDIに被告回線利用申込証を提出した場合であった。川崎地区において右の特例が設けられたのは、同地区において、被告が、平成三年六月二一日にPOIを開設することとなったため、POIを開設していなかったDDIとの関係で、被告が第二優先順位となっても、被告に課金が発生するようになったためである。被告は、原告を含む営業社員に対し、課金発生のシステムや、歩合給発生のための要件について、雇用契約締結後実施された営業研修及び日常の指示等の機会に説明していた。原告は、平成三年四月中旬頃、アオイ東京店に対し、〇〇八八市外電話サービス契約締結についての交渉を開始したが、アオイ東京店の所在地は東京都千代田区であって川崎地区外にあり、また、同店には、当時既にDDIのアダプターが設置されていた。そして、原告は、アオイ東京店から、〇〇八八市外電話サービス申込証及び解約書を受領し、これらを被告に提出した。被告は、営業社員から、顧客の解約書を受取った場合、後日のトラブル発生防止のため、電話等で顧客に対し、他の新電電のアダプターを解約することについて問題がないかどうかの意思確認を行っており、アオイ東京店に対しても、DDIのアダプターを解約することにつき問題がないかどうかの確認のため同店の担当者に連絡を入れたところ、同人から、原告には、初回の説明からDDIのアダプターは取り外さないで欲しい旨を申入れており、解約書がDDIのアダプターを取り外すためのものであるという説明を聞いておらず、アオイ東京店が考えていた被告との契約の内容は、DDIのアダプターを利用しつつ、被告対応にするだけに過ぎないものであるという内容の回答を得た。被告は、右の回答からして、アオイ東京店はリプレースを承諾していないと判断し、受領していた解約書をアオイ東京店に返却した。

2  以上の事実関係に基づき検討すれば、アオイ東京店について被告に課金を生じさせるためにはリプレースすることを要し、その前提として同店がリプレースを承諾することが必要となるので、原告の歩合給も、右の承諾を得た上で、解約書等を取得することにより初めて発生することになるが、同店には、リプレースの意思が最初から全くなかったことが明らかであって、同店は解約書を作成し、原告に渡しているものの、これは誤解に基づき誤って作成されたものに過ぎず、被告自身もリプレース不成立であると認め、解約書をアオイ東京店に返却しているのであるから、同店については、歩合給発生のための要件が満たされなかったものと認められる。

以上からすれば、原告が、アオイ東京店との契約に関し、歩合給の支払いを求める点は理由がない。

二  争点2(原告の平成三年度夏季賞与請求権の有無)について

(証拠・人証略)、前記当事者間に争いのない事実等を総合すると、営業外務社員である原告には、被告臨時社員就業規則が適用されること、同就業規則二四条、同条に基づく「臨時社員就業規則」別の定め三条一、二号は、被告は賞与支給対象となる契約社員を、賞与支給日に在職する者に限定していたこと、被告における平成三年度夏季賞与の支給日は平成三年六月二七日であったこと、原告は右賞与支給日に先立つ同年五月三一日付けで解雇され、右賞与支給日には被告に在職しなかったことが認められる。そうすると、前記の各規定により、原告は平成三年度の夏季賞与の受給資格を有しないこととなる。

したがって、原告が、被告に対し、平成三年度夏季賞与の支払いを求める点は理由がない。

三  争点3(原告主張にかかる交通費等が、被告の負担すべき営業経費となるか否か)について

1  交通費について

(一) (人証略)によれば、営業社員が交通費を支出した場合において、電車等の公共機関の利用のときは、被告は、業務日誌で確認した上、従業員の所持する定期券等と重ならない範囲において、従業員の申請に基づき費用を負担する扱いとなっていたこと、また、タクシー利用のときは、被告は、顧客の同行等特にタクシーを利用する必要があったと認められる場合にのみ費用を負担することとしていたこと、更に、営業社員がタクシー代を被告に請求するためには、領収書の裏面に、行き先、乗車区間及びタクシーを利用した理由を簡潔に記載して被告に提出することを要し、所長又は所長から権限の委譲を受けた者の承認の上で支給する扱いとなっていたこと、そして、原告の交通費支出についても、同様の要件の元に、交通費の精算を行う合意が存していたことが認められる。

(二) 以上に基づき、原告の主張する交通費について検討する。

先ず、平成三年四月一六日分について検討するに、(証拠略)の中には、同日付けの相模原観光交通株式会社発行の領収書が存することが認められるが、(証拠略)(<人証略>により、寺田清枝の作成であると認める。)及び(人証略)によれば、原告は、当日、被告の営業用車両を使用していたことが認められ、原告が営業車両を使用しつつ、あえてタクシー及び電車を利用する必要性が原告に存したことを認めるに足りる証拠はなく、また、被告にタクシー代を請求する場合に必要な前記認定にかかる各手続を原告が履践したことを認めるに足りる証拠もない。

次に、平成三年四月二六日分について検討するに、(証拠略)の中には、発行日付が「1991年04月27日」と印刷文字により記載され、そのうち日の部分が「26」と手書きで訂正された平和交通株式会社発行の領収書が存することが認められるが、右訂正を施したのが原告であることは当事者間に争いのないところであって、同号証により、原告が真に同月二六日、同社のタクシーを利用したものとは直ちに認められず、他に原告が同日タクシーを利用したことを認めるに足りる証拠はなく、タクシー代を請求する場合に必要な前記認定にかかる各手続を原告が履践したことを認めるに足りる証拠もない。

以上からすれば、原告が、交通費の支払いを求める点はいずれも理由がない。

2  書籍代について

(一) (人証略)によれば、従業員が営業や業務遂行の上で必要と考えた書籍の購入代金を被告の負担とするためには、<1>所長の事前承認を受ける、<2>書籍の購入は女子従業員が行うのを原則とする、<3>女子従業員がが(ママ)多忙のときには購入を希望した従業員が直接購入し、領収書及び当該書籍を所長に示す、<4>その際、領収証は被告宛に記載すべきであって「上様」としてはならず、特に、従業員個人宛の領収証は一切認めない、<5>購入した書籍は、被告の書籍として登録する、という手続及び取扱いがなされていたこと、そして、原告についても同様の要件の下に書籍代を被告の負担とする旨の合意が存していたことが認められる。

(二) (証拠・人証略)によれば、原告が、平成二年一二月二日に株式会社三省堂書店神田本店において書籍代として一二〇〇円を、同月二九日に同店において書籍代として八〇三円を、同日株式会社書泉において一三四〇円をそれぞれ支払い、平成三年一月一四日に株式会社日経BPにたいし、『日経コミュニケーション』の購入代金として一万一八〇〇円を振込送金したことが認められる。しかしながら、株式会社三省堂神(ママ)田本店及び株式会社書泉において、原告がいかなる書籍を購入したのかは証拠上明らかにされていない他、(証拠略)によれば、右四枚の領収書の宛先についても、前三者については、「上様」宛で、『日経コミュニケーション』については原告宛とされており、更に、(人証略)によれば、原告は購入したとする書籍をいずれも被告に持参し、示していないことが認められる。

以上からすれば、原告が、原告主張にかかる各書籍を、被告の営業や業務遂行のために購入したものと認めることはできず、また、必要な手続も全くとられていないのであるから、原告が被告に対し、それらの代金の支払いを求める点は理由がない。

3  ガソリン代について

(一) (人証略)によれば、被告は、従業員が所長の事前承認を得、ガソリンスタンドにおいて領収書に車両番号を記入して被告に請求した場合に、従業員の購入したガソリンの代金を負担する扱いとなっており、原告についても、同様の手続きの下に、ガソリン代金を被告が負担するとの合意が原、被告間において存したことが認められる。

(二) 原告は、ガソリン及び最低限安全上必要のあるものを補給、購入したと主張し、証拠としては(証拠略)(原告作成にかかる支払証明書)が存するが、購入にかかるガソリン以外の物品の内容及び金額の内訳等が、主張上も証拠上も不明である上、本件全証拠によるも、原告が被告に対し、ガソリン代を請求するために必要とされる前記手続を行ったとは認められない。

したがって、原告が被告に対し、ガソリン代の支払いを求める点は理由がない。

4  テレフォンカード代について

(証拠・人証略)によれば、被告は、営業社員に対し、外出先から被告に電話連絡するために、通話料金が被告負担となるコレクトコールカードを貸与し、また、外出先から顧客先に電話連絡するために、従業員の申請に基づき、必要な枚数の販売促進用テレフォンカードを交付していたこと、従業員が外出先から顧客宛に電話連絡するに当たり販売促進用テレフォンカードを使用しなかった場合には、正当な理由があれば、その都度電話代を支払っていたこと、原告は被告からコレクトコールカード及び販売促進用テレフォンカードの配付を受けていたことがそれぞれ認められる。

(証拠・人証略)によれば、原告は平成三年五月九日、同月一六日、同月二二日、同月二八日にテレフォンカードを購入したことが認められるが、右に認定した事実関係からすれば、原告は、営業活動上電話をかける必要が生じた場合には、被告から交付されたコレクトコールカードや販売促進用テレフォンカードを使用すれば済むことであり、あえてテレフォンカードを購入しなければならない特段の必要性は、主張上も証拠上も認められない。また、(証拠略)(領収証)には、原告によって「5/7辻氏了解済」との記載がされているが、これをもって、原告、被告間において、被告が原告の購入したテレフォンカードの代金を負担するとの合意が存在したと認めるに足りない。

したがって、原告が被告に対し、テレフォンカード代の支払いを求める点は理由がない。

四  争点4(原告の被告に対する慰謝料請求権の有無)について

1  被告従業員らの原告に対するいじめ、嫌がらせの有無及び本件解雇の違法性の有無について

(一) (証拠・人証略)及び既に認定済の事実を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 原告は被告との間において、契約期間を平成二年一〇月一日ないし同年一二月三一日までとし、営業外務を専門に行うことを業務内容とする本件雇用契約を締結した。原告は、川崎地区における顧客開拓のために設置された川崎サテライトオフィスを勤務場所とし、契約更新によって、右契約期間経過後も被告との雇用関係が継続していた。

(2) 被告従業員らが、原告について感じていた問題点及び同人に関して行った行動として、以下のようなものがあった。

<1> 従業員が被告に交通費等の営業経費を請求し、被告にその負担を求めるためには、既に認定したとおりの手続が必要であったが、原告が営業経費を請求する場合、必要事項の記載が欠けていたり、必要な資料が添附されない等、手続的不備が極めて多かった。また、原告が、電車賃を請求する場合、被告支給にかかる通勤手当で購入した定期券の利用により乗車可能な区間内のものが少なからず存在した他、原告が被告の営業用車両を利用している日についても請求したことがあり、更に、営業活動をしながら顧客先を回ることが時間的に不可能であると思われる請求をしたこともあった。

<2> 原告は、超過勤務表の記載を、後日書き替えることがあった。

<3> 原告は、営業社員が提出を義務づけられている営業報告書を殆ど提出しなかった。また、提出した場合にも、営業報告書には午前、午後とも川崎で営業活動をした旨が記載されているにもかかわらず、同日の交通費として東京地区の区間について請求している等、営業報告書の内容が虚偽と思えることもあった。

<4> 被告においては、営業社員が、自宅から顧客先に直行したり、顧客先から会社に戻らず自宅に直帰するいわゆる直行直帰を原則として認めておらず、必要がある場合には、被告従業員辻某(以下「辻」という。)の許可を得て行うこととされていたが、原告は、辻の許可を得ることなく、直行直帰をしばしば行っていた。

<5> 川崎サテライトに勤務する従業員は皆、原告には協調性がないとの認識を持っていた。

<6> 交通費請求や超過勤務表書替えの問題について、交通費の妥当性及び確認並びに超過勤務表の管理等の業務を担当する寺田清枝(以下「寺田」という。)が原告に対し注意したことがあったが、原告は腹を立てて従わないため、寺田が原告の右の問題点や協調性の欠如等の不満を記載した書面を所長宛てに送ったことがあった。また、原告は、営業報告書を提出するように注意されたことがあったが、あまり改善されなかった。

(3) 辻は、原告を含む川崎サテライトオフィス勤務の営業社員全員に対し、営業活動上の注意事項を記すと共に、注意事項を無視した場合、一回につきNTT課金から五万円を控除することや、川崎サテライトオフィスに午前九時三〇分以降滞在し、一定の報告をしない場合、一分当たり一〇〇〇円をNTT課金から控除する旨を記載した書面を配布したことがあった。ただし、現実に金員の控除が行われたことはなかった。

(4) 被告は、平成三年四月川崎POI開業にあたり、原告を含む被告従業員に対し、東京及び他の顧客との調整は四月中に行い、同年五月及び六月には、総力を挙げて川崎地区における契約を獲得するようにとの指示を出した。

(5) 当時被告横浜営業所所長であった細谷正昭(以下「細谷所長」という。)は、前掲アオイ東京店とのトラブルや、交通費請求についての疑問点及び営業報告書の提出懈怠等について事情を聞くため、原告に対し、横浜営業所に出社するよう指示したものの、原告は、指示された時間の直前に「顧客から連絡が入ったため、横浜には行けない。」旨の連絡を入れたのみでこれに従わず、細谷が再三ポケットベルで呼出しても応じなかった。また、細谷は、平成三年五月一三日、原告に対し、同月一六、一七日の二日間の自宅待機を命じたが、原告はこれに従わなかった。原告は同月二一日に川崎サテライトオフィスを訪れた際、業務命令を無視した行動をとった理由等について尋ねた従業員との間でもめたことから、自ら警察に電話を入れて警察官の派遣を依頼したものの、その到着を待たずに帰宅し、残った従業員が警察官に事情説明を行った。

(6) 被告は、原告が協調性に欠け、上司の業務命令に違反し、誤った営業活動をなし、営業経費を不正請求することが、臨時社員就業規則上の懲戒解雇事由に該当すると判断したものの、原告の将来を考慮し、平成三年五月二四日、普通解雇として同月三一日付けで本件解雇の意思表示をした。被告は、原告に対し、解雇予告手当として、平成三年六月四日付けで一五万九一〇四円を、また、平成六年二月三日に遅延損害金を含め一五万九二一〇円を支払った。

(二) 以上に基づき検討するに、先ず、原告に対するいじめや嫌がらせの有無については、原告の営業経費の請求に手続的不備があり、請求内容についても適正でないと思われるものが存したことは、既に認定したとおりである他、原告には、これ以外にも、営業経費の請求、顧客に対する説明不足によるトラブルの発生、営業報告書の不提出、協調性の欠如、上司の業務命令違反等多くの問題点が存したことが認められるのであって(<証拠・人証略>)、被告従業員らが原告になした指示、指導が不法行為を構成するとは認められない。また、辻が、注意事項を守らなかった場合に金員を控除する旨を記載した書面を配布した点についても、営業社員全員に発破をかける目的でなされたことが認められ(<証拠略>)、実際にも金員が控除された事実はないのであるから、原告に対する不法行為を構成するほどの行為であるとは認められない。更に、被告が、顧客に対する意思確認を行ったこと及び営業戦略を立てて従業員に指示したことについても、不法行為を構成するものとは認められず、その他にも、不法行為を構成するような原告に対するいじめや嫌がらせが存したことを認めるに足りる証拠はない。

次に、本件解雇について検討するに、右に認定したとおり、原告には、営業経費の不適正な請求、営業活動の誤り、協調性の欠如、業務命令違反等様々な問題点が存していたことが認められるのであり、このような事情の下に行われた本件解雇権の行使が権利濫用となるとは認められず、まして不法行為を構成するとは認められない。なお、被告の原告に対する解雇予告手当の支払いは、当初不足していたが、不足分は既に遅延損害金を含めて追加支給されているのであるから、この点についても不法行為を構成しない。

2  原告の発病について

(証拠・人証略)によれば、原告は、平成二年一二月一四日午後四時三〇分頃、営業の目的で訪れた相模原市所在のアイダエンジニアリング株式会社構内において倒れ、救急車で相模原協同病院に搬送されたこと、同日ないし同月一六日まで相模原協同病院に入院し、同病院医師により、心臓神経症である旨の診断がされたこと、また平成七年九月二一日に神奈川県川崎市所在の医療法人光和会アルファメディック・クリニックにおいて、「胸部X線撮影で心肥大あり。今後、定期的検査を要する。」との診断を受けたこと、その後も体調の不良が継続していることが認められる。しかしながら、原告の右発病と被告における就労との間の因果関係を認めるに足りる証拠はない。

3  以上のとおり、いじめや嫌がらせ、本件解雇及び原告の発病について、被告の原告に対する不法行為が成立するとは認められないのであるから、原告が被告に対し、慰謝料の支払いを求める点は、理由がない。

五  争点5(付加金支払に関する請求)について

歩合給未払いを理由とする付加金の請求は理由がなく、裁判所は被告に対し、付加金の支払いを命じない。

六  以上のとおりであるから、原告の請求はいずれも理由がなく、その余の点については、判断する必要がない。

(裁判官 合田智子)

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